裏道メルヘン

この記事の所要時間: 1 16

 ふっと入ってしまった横道にはなんだかよく分からない標識があった。

「行き止まりません」
 行き止まりがあるというのならば解るのだけれど「ない」とは一体どういう意味なのか。表通りから見えたビニールのひらひらが垂れ下がる三輪車のせいで、ついつい寄ってしまったこの小道。実際なんだか少しおかしい。

 乾電池の自動販売機。錆びついた家族計画。庭先に見える二層式洗濯機。ホーローの看板。なんだか懐かしい物ばかりが並ぶ。もっと見たくてついつい奥へ吸い込まれてしまう。こんな辺鄙な所にある丸ポストなんて一体全体誰が回収に来るというのか。
 塗装が剥げた井戸のポンプ。緩んだ電線の木が痩せた電信柱。ミリンダ自販機。アナログアンテナ。屋根上にあつらえた干し場。
 覗き窓がくすんだガチャガチャの銀盤には二〇円とだけ書いてある。煮物の香りはするくせに人のいる気配がしない。ラジオの雑音にのった妙な抑揚の男性の声だけがどこからか聞こえてくる。これはいささか良い道を見つけた。まるでセピア色の小道ではないか。

 あっという間に通り抜けると、そこいつも良く知る大通りだった。見上げれば日陰を作るためだけにあるようなビル街。もうそろそろ昼休憩も終わるはずだ。少し遠回りになってしまうので来た道を戻ろうかと振り返ると、果たしてそこには道などなかった。行き止まれないとはそういう意味だったかと合点がいく。

 たまには化かされるのも悪くない。僥倖、僥倖、べりーらっきぃ。

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