ラファエル田中

この記事の所要時間: 4 1

「じゃあ名前はなんて呼べばいいかな」
「田中です」
「田中?ラファエルじゃないの?」
「役名はそれです」
「じゃぁ、田中さん。他の人は?」
「ちょっとみんな色々あって。清水さんはお子さんが熱出しちゃって今日は代役で鈴木さんが来ます」
「清水さん?」
「あ、エレーナです。ヒロイン役の。清水さんシングルマザーで大変なんですよ」
「・・・えぇっと。代役は・・・鈴木さんだっけ、鈴木さんは?」
「彼女は遅刻常習者なんで、あっ、でも30分以内には来ます」
「30分?本当に来るの?俺あんまり時間ないんだけど。困るなー。でも後一人いるはずだよね。凄腕の剣士役の人」
「はい。30分以上遅れると罰金なんで皆さん来ますよ。剣士。あぁ加藤さんですね。加藤さんは台本だとシーン2まで出番ないんでそれまでには来るかと」
「あーそっか。じゃそれまではいける感じ?なんとかなりそう?」
「そうですね、なるべく台本の進行は崩さない感じでなんとか」
「そっか、わかった。で衣装はどうしようか?流石にそのアディダスのTシャツはないよね」
「はい。鎧は2パターン。つや消し黒の鎧と普通のシルバー。剣は片手剣と両手剣があります」
「じゃ両手剣でいってみよっか。カッコいいし。主人公っぽい。鎧は普通のでいいや」
「あ、えーっと・・・。僕、両手剣の演技苦手なんですよ。あれ重くて。片手剣じゃダメっすか?」
「えー、マジかよ・・。うーん。じゃいいよ片手剣で。最初はどんな感じ?」
「最初は仲間の紹介やら強さをアピールしながら回想でストーリーを繋いでいく感じですね。それで最後の敵の部分だけは最初にガンガン仲間がやられていきます。そこから主人公である田中とボスの戦闘シーン。もちろん最初はボッコボコにやられるんですが、何故か一人ずつ倒れていた仲間が立ち上がり、最後に皆で倒してハッピーエンドです」
「そこは田中とボスじゃなくてラファエルとボスって言おうよ。って言うかそもそもダメじゃん。だって仲間居ないよね、今。」
「そうなんですよねー。取り敢えず軽い敵を倒して加藤さんの出番まで引きます。導入部分も買い物シーン長めにして尺稼ぎしますから」
「まじか。そのぉ、、取り敢えず一人で倒す軽い敵ってどんなの?ゴブリンとかそういう奴?」
「スライムです。ゴブリンは・・・ちょっと強いんで。いつも倒せるかギリギリで。あと・・・昨日・・・寝違えちゃって・・・」
「え、、本当に?田中さん主人公だよね?おかしくない?本気?」
「はい。頑張ります」
「不安だわー。本当頑張ってよ。でもまぁ今日は初日だし。田中さんは今日が演技初めてじゃないよね。わかった。とにかく見せてよ」
「はい。わかりました」
「じゃどうすればいい?」
「はい。まずはそこのそれつけてください。第一章、シーン1の街のイメージで始めます。あとは僕の動きを追いかけてもらえばなんとか」
「うん。わかった」

本の上にホログラムで浮かび上がる田中ラファエルを見下ろしながら、脇に置いてあったVRヘッドセットをつける。暫くすると頭の中の30センチメートル前、現実と非現実の間に、中世を模した街が現れた。

−−最新型のVR書籍

見出しの次のページにあった主要人物紹介は三人。そのうち二人がまだ来ていない。

「じゃぁ、始めますんで」
VRに内蔵されたヘッドフォンから街の雑踏と軽やかなBGMが聞こえて来る。目の前にはちゃんと冒険用装備をまとった田中・ラファエルが居た。道具屋で足りない装備を揃えるようだ。

おい、田中・・・。
なんで道具屋にチョコレートがあるんだ。おい、、、キットカット買おうとするなよ。
どうして買い物かごにイオンって書いてあるんだよ。スポンサー、もしかしてスポンサーなのか田中・・・。
頼む、頼むから買い物かごを姉御持ちしないでくれ。
そこに一列に並ぶのか。道具屋なのにラインが引いてあるのか。
おい、田中、なんでその時代にレジスターが有るんだよ。
しかもSuika対応かよ!!!
ポイントカードってなんだよ!
今日はイチのつく日かよ!!!
あぁ、もうダメだ。何やってんだよ・・・。
一番大切な薬草を忘れちゃ駄目じゃんよぉぉぉ。
 
カメラワークが得意気に切り替わる。
鎧の隙間から見覚えのあるTシャツの裾がはみ出ていた。

田中、、、田中、、田中ァぁぁぁ。
お前本当にスライム倒せんのかよぉぉぉ。

バイト前にちょこっと試そうと思った自分が悪いのかもしれない。しかしそんなことを反省する以前に何か根本的に間違っている気がする。

本のタイトルは『皮肉な冒険3D』

正直この先不安しか無い。

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