アバラハウス

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 自分にとって今までで一番居心地の良かった場所って何処だろう。絵描きの仲間たちと過ごした築30年2K共同トイレ風呂無しアパートも好きだったけれど、俺にとってはあらたくんの家が最高だった。あらたくんは8畳1K風呂無し築30年家賃8000円の部屋にカセットが動かないCDプレーヤーと沢山の山積みされたCDと素敵な彼女と住んでいた。色褪せた畳は縁が黒い布製で、傷やほつれやタバコの焦げ跡、消えない口紅の汚れが付いていた。部屋には家具などなんにもなくて、せんべい布団が敷いてあるだけだった。良く電気も止まっていたし、ブラジャーが転がってたり、男と女の匂いがしたり、よくも誰もいないあの部屋に1人で遊びに行ったものだと呆れてしまう。あそこには玄関がなくて窓しか無かった。玄関みたいな扉も確かにそこにはあったけれど、あらたくんに「開けるな」と言われたので俺は一度も開けたことがない。俺は家人が居ない時も、いつも開けっ放しのサッシから勝手に部屋に上がり込み、ボーッと考え事をしたり、詩を書いたり、山積みのCDの中からブランキーを探して聞いたり、目の前30センチくらいに作り出した丸い煙を見ながらタバコを吸うのが好きだった。

 とても昔のことなのであの部屋はなくなってしまったと思う。あの部屋が大好きだった俺は、頭の中に完璧に再現することができるのだけれど、実際にどうやったらあんなにヤバくて居心地のいい感じを出せるのかが分からない。そんなことを考えていたら、ふとあの玄関は開けたら大人になってしまう扉だったのかもしれないと思えてきた。あらたくんは開けてしまったのだろうか。

 あぁ。居心地のいい場所について書いていたんだった。昨夜焼酎のおかげで酩酊した俺は、あの部屋で物を書けたら最高だなと気付いてしまった。善は急げと思い立ち、頭の中に早速あの部屋をつくりあげて「アバラハウス」と名付けてみた。何か書くときにはここにいます。物好きな方は遊びに来て下さい。玄関はいつも開いています。閉まっているときなど滅多にありませんが、もしもの時はお察しください。

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