俺は真摯な仏教徒だ。しかし日本で政治家の次にズルいのは坊主だと思っている。なにせ坊主は何をやっても許されるし面白い。姦淫しまくり酒飲みまくりでも生臭坊主という称号が貰える。坊主って坊の主でしょう?ねぇ主。普通「主」なんてよっぽど何かを呪うかなんかして先客がいない沼かなんかに飛び込まなきゃなれないはずなのにそれに比べたらお手軽に見えるし、他に主が居ても小坊主なんて呼ばれて弱肉強食しないなんてズルい。そのうえ奴らは話が上手いしありがたいお経まで読めたりなんかして、それはもう人生におけるチートではないか。三蔵法師の功徳が現代にまで残ってるのか知らんけど、金持ち率は高ぇわ、幸福度は高ぇわ。俺は生まれ変わったら是非とも坊主になりたい。そして姦淫しまくりで酒飲みまくり金持ちまくりのあんな感じになりたい。田舎の坊主のスクーター率は半端なく、高級車所有率も半端ない。ベンツとか乗って「功徳ですーん」とかいって市議会議員かなんかになってもっと悪いことをして地獄に落ちて、そこでありがたいお経を読んで浄土にジャンプ「孔雀王、転生っ」とかヤングジャンプかましたい。中学生の時に見た真っ黒の法衣に真っ黒のスクーター、黄金のヘルメットを被ったあれはもはや人のセンスじゃなかった。頭に被った助平椅子。まさにそんな輝きだった。合掌。

さて、坊主と言ってもいろいろな宗派があるが特にヤバイのは曹○宗だと思っている。
俺は10年ほど前のある日、某東北県にいた。結婚予定相手(妻)のばーちゃんの13回忌であり、俺のお披露目大会だった。あぁ敷居高ぇな感じである「はい、今度結婚します。ええそれなりに幸せに。お仕事?ええ一応なんとか(派遣)」などという挨拶も早々に寺に向かう。するとそこには塔のようなフォルムの無駄にデカイ寺がそびえ立っていた。多分宗派の関係だと思うのだがちょっと変な形の山寺なのだ。俺は絶対に狐か狸が住んでいると確信した。

「こんにちはー」檀家は慣れたものである。挨拶しながらずんずん入って行くと住職が出てきた。そこは狐の寺だったのだ。住職はジャイアント馬場に顔も体格もそっくりだった。住職からの第一声は「うーんわかったじゃぁ本堂へ。あと来年から息子がここ継ぐから。これ、こん写真」見せられた写真にはもう一人の馬場さんが写っている。ホントそっくりだなぁと一同が驚く中、俺はちょっと気を引き締めないといけないと思い始めていた。だってこの時点で既に面白くて笑い出しそうになっていたから。

「じゃぁちょっと着替えてくっからお茶でも飲んでて」

ゾロゾロと親族一同で本堂に行くと果たしてそこには狐の嫁さんが居た。ジャイアント馬場の嫁さんは美人だった。流石は田舎坊主である。そう言えば前日俺は緊張のあまり良く眠れていなかったのかもしれない。温かいお茶は俺を少しだけ眠くさせた。俺はこの時すでに読経などという死ぬほど効き目の高い子守唄が始まるというのにまんまと狐の術中に嵌ってしまっていたのである。

読経が始まるやいなや俺はすぐに後悔した。あのお茶には絶対なにかやばい薬が入っていたに違いないと確信した。

--退屈な読経、猛烈な眠気

俺は戦わなくてはならない。だってこれは一族の娘をかっさらっていく俺のお披露目会でもあるのだから。おちつけ。落ちようとする目蓋と落ちそうになる頭。そしてバックコーラスに馬場さんの読経「う~~~んんまぁおぉあぁ」恨めしかった、馬場が恨めしかった。左右の頬の内側を噛み締めながら早くこの呪いの儀式が終わるのを願った。しかしあれが涅槃か、数分後スッカリ出来上がった俺はもう諦めて寝ちゃおうかと思い始めていた。いや、決意を固めていた。意志弱ぇー、超弱ぇー。

ーーバシンッ!
なにか太ももに痛みを感じた。右を見ると将来の妻が怖い顔をして俺の足を叩いている。いかん!俺は思い直して起きる決意を固めた。
コンコンコンコンコンコンコンコン…トン。俺の耳に異音が届く。

--トンてなぁに?

俺はゆっくりと馬場さんの方を見た。一定の早い速度で木魚の音が響く。あれがこの絶妙なヤバい眠気の音源だな。やっぱ寝ちゃおうかなぁ俺と思ったところへ

--トットン

おかしい。聞き違いではないようだ。首を伸ばしてみるとそこにあったのは驚愕の光景。

『馬場木魚 with ダブルハンド』

あの巨体が右手でベースのリズムを、左手でサブのリズムを刻んでいる。木魚二刀流かよ。まるでドラムじゃねーか。よく見ると馬場さんはノッている。むしろノリノリじゃねーの。周りを見渡せば親族は皆下を向いて悲しそうに眼を閉じている。そうだよね、実母の13回忌だもんね。そんな中で馬場さんが一人で体をゆっさゆっさしながら気持よくドラムを叩いてる。そこにボーカル「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」俺の眠気は大気圏まで吹っ飛んでいた。そして代わりに来たのはそう笑気。

「ようこそ♪」

じゃねぇ。ダメ、絶対ダメ。寝るよりアカン、笑うのは絶対ダメ。俺はこの時ほど悟りを開きたいと思ったことはない、現世の苦悩から脱出したかったことはない。
さっきよりもガッチリ頬を噛み締める。やめとけばいいのに気になってちょっと薄目を開けてしまう。そこにおわすは巨体の狐。やっぱり馬場は狐だった。しっぽを振って尻を揺すりながらノリノリのドラム。そこからのスピードアップ。そしてボーカル

「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」

ちょっと息を吐いた俺のそれはもう笑いを含んでいた。思わず笑いがこぼれる。

「プフっ」

コンコントットンコンコントットンコンコントットン「プフっ」「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」
「ブフッ」「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」「ブフッ」「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」
コンコンドンコンコンドンコンコンドン「ブフッ」「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」「ブフフッ」

「バシーン」

おっ!新しい音!と思ったら、怒りに震えた未来の妻がさっきよりも強く俺の足を叩いている音だった。おかしい。寺の中に鬼がいる。

「俺が悪いのかこれ?いや、そんな顔で見るなって。馬場が!馬場が!木魚!!木魚ダブル!!」

--されど心の叫び届かず。
コンコンドンドンコンコンドンドンコンコンドンドン
「ブハッ」
「バシーンッ!」
「う~~~んんまぁおぉあぁ♪」

「ブフッ(俺)」
コンコンドンコンコンドンコンコンドン

「ブハッ(俺)」
「バシーン(妻)」

「う~~~えぇぇいー♪(狐)」
「ブホッ(俺)」「バシン(妻)」

「ブホッ(俺)」「バシーン(妻)」
「ブハッ(俺)」「バシーン(妻)」
「バシー
ン(妻)」「バシーン(妻)」

「う~~~えぇぇいー♪(狐)」

「グヴォッ(俺)」「バシーン(妻)」
「バシーン(妻)」「バシーン(妻)」「バシーン(妻)」

読経の後、俺の右足の太ももは腫れ上がり、カミさんの眼は釣り上がり、俺の腹筋は崩壊していた。

「今日はちょっと風邪気味だから墓地での弔いは休むわ。ごめんね」

馬場は高々に宣言するとさっさと奥に消えていった。風邪の割にはノリノリだったじゃねーか!さよなら十数万円。その後、墓参りの後の宴で散々弄られ、義父と妻には恥をかかされたとキレられて婚約が解消の一歩手前にまでなったのは言うまでもない。

ファンシイダンス。