朝起きてリビングに降りて行くと空気が冷たかった。
エスプレッソマシーンのボタンを押してコーヒーが出てくるのを少し震えて肘を抱えながら待つ。
この寒さはなんだか懐かしいなとふと思った。

若い頃は起きたらまず薬缶にお湯を沸かそうとしていたんだっけ。
ストーブを付ける前にまず薬缶だったのは何故だったのだろう。
こんな感じの寒さは生きていることを実感させるなと思った。

震えているくせに羽織る物を探すわけでもなく鼻をかまなければと思い出す。
いつもより濃い感じのものが無くなると鼻腔はとてもすっきりしていた。
珈琲の湯気を鼻から吸い込む。少し痺れるような温かい水蒸気と珈琲の香りが鼻の奥に漂ってくる。

こんな寒い日は生きている感じがするとか懐かしい感じがするとか。
そうだこう言うのを雑念とか言うんだっけ。
朧気な不安は頭の奥の引き出しに仕舞って余計なことを考える。
今日しなくてはいけないことなど今は考えない。

そうだ俺は飄々と生きたかったんだった。
自分らしく生きたかったんだ。
もっと余計なことを考えなければ。

そんな事を自分に言い聞かせながら一人珈琲を楽しんだ。