「抑圧系ですよ」
「は?」意味がわからない俺はその言葉しか言うことができなかった。
「だから抑圧系。この音楽は抑圧系ってジャンルなんですよ。わかります?」
中古レコード屋に入った俺は店主に流れている曲のタイトルを聞いてみたところとても返答に困る説明をされた。さらに店主は逆切れしているようである。
「お客さんが聞いたんじゃないですかこの音楽について。だから教えてあげますよ今、抑圧系。コレは聞いている人を抑圧する音楽なんですよ。わかる?」
あまりにもクソみたいな音楽だったので曲名を聞いただけなのに何故こんなにもキレてる対応をされるのかわからない「わかったよ。ウッセェなぁ」とお礼を言って帰ることにした。
さらに店主は後ろから声をかけてくる「そうです。それでいいんですよ抑圧系は。この音楽は怒りを生むんです。ありがとうございました」
物凄くダメな感じのフュージョンとジャズが融合しているみたいな気持ちが悪い音楽。それがいつ終わるのか全く予想がつかない感じで流れていた。店主の無茶苦茶な返答にムカついているのだけれど、もしかしたらあの店主はあの音楽のせいでおかしくなったんじゃなかろうかと思えてくる。

そう言えばありがとうございましたとか言ってたな。なんだよ何も買ってねぇだろ。大体なんであの口調の後にありがとうございましたなんて言えるんだあいつは。まったくふざけた奴だ。ムカツク、あーむかつく。ムカつけばムカつくほどあの音楽が頭のなかに流れてくる。おっと、危うく口ずさむところだったじゃねーか。あんなの聞いてたら絶対テンションおかしくなっちまうじゃねーか。狂ってる。全く俺はどうかしてる。

立ち止まりでかいゴミバケツの脇でタバコを吸う。
水色のプラスチックで出来たそれには小さい傷がいっぱい付いていて茶色の筋ができている。
世の中説明が出来ないけれど惹かれてしまったり嫌っているはずなのに好んでいるような行動をとってしまうことがある。当然の反対が意外にならずに偶然にもなってしまう。

カランカラン。喫茶店でもないのにベルの付いたドアを開ける「いらっしゃいませー」
俺は抑圧系CDとやらを持ってレジに立つ。

CDのジャケットは赤くてなんだかカッコ良くて真ん中に白い文字で「奈落」って書いてあった。