俺は悪魔だ。
 東京タワーのてっぺんにいる。俺はこれからカラスを1羽捕まえなければならない。そいつの喉の部分に、塗り薬を塗りつける必要があるのだ。この塗り薬は一種の契約の意味を持っていて、塗りつけられたものを下僕にすることができる。毎度毎度のことだけれど俺はこの作業が嫌いだ。一体何の意味があってこんな事をしなければならないのだ。
 昔オレは伴天連と一緒にこの日の本の国にやってきた。伴天連共は本当にバカで俺達が神に敵対するものと信じて疑わなかった。だから俺が一緒の船にに乗って来たことにも気づかなかった。大いなる阿呆だ。俺達はただ人の心の隙間に生きるモノ。神などに敵うわけがないのだ。だって彼奴等はこの世界を持ってやがるのだから。俺達は何も持っていない。あるのはほんのちょっとの悪意と自我の意識だけだ。
 あぁやっとカラスが来た。コイツは魔女の使いなどと謳われているが神の使いになりそこねたただの落ちこぼれだ。足が2本しか無いばっかりに永遠にこの業から抜け出すことが出来ない。何も関係などないのにこいつらは同じ色の俺たちを敬っている。本当に馬鹿げていると思うが人間という生き物にもそんなところがあるらしい。塗り薬を塗って空に離す。カラスは一瞬上昇して旋回し、それから町へと舞い降りる。まるで俺に敬意を示すかのように。
 あぁ俺は無力だ。あんな小さな生き物を従属させて心の何処かで満足している。一体いつからこんなに腑抜けになったのか。他の悪魔は別の場所でもっとうまくやってるのだろうか。俺は頬杖をつきながら奴らを見守ることにする。
 カラス達は木に固まって街を見ている。人々はただそれを不気味がり、心に少しだけ不安を灯す。たったこれだけの悪意で世の中は少しずつおかしくなっていくのだ。俺は本当はこいつらにもっと酷いことをさせることもできるのだがしないしする必要がない。もう世界は神からも悪魔からも手を離れて勝手に悪意を生み出しているのだから。

 俺は神ではない何かに向かって唯それだけを信じている。