あまり言ったことがない話をしてみる。
ある日目が覚めると一人暮らしの部屋の中に猫の大きさほどの巨大な蜘蛛が一匹いた。カーテンレールのところにじっとこちらを見るように張り付いている。すぐにそれが実際に存在しているものではないということに気付いた。なんでこんなものを自分は見ているのか、もしくは何か悪いことの暗示なのか。胃潰瘍の痛みで酒を飲むどころではなかったし頭も正常だと信じたい、一体俺はどうしてしまったんだろうと怖くなったがその巨大な蜘蛛はものの10分もしないうちにフット消えてしまった。どこかに隠れているのかと一瞬思ったりもしたのだけれどそんな大きな蜘蛛が隠れられるようなスペースはどこにもなかったし静かな部屋の中を音も無く移動できるはずもなかった。そして何事もなかったと自分に言い聞かせ1年位住んだあとでそこは引っ越した。今でも結構リアルに思い出すことができるからきっとあれは相当ショックだったのだと思う。自分が幻覚を見てしまう何か精神的な問題があるのか、霊感的な何かを持ってしまっているのかもしれないという恐怖。どっちだとしても決して好まれるものではないと思えた。
あれからもう10年以上経つが今ではあれは後者だったと確信している。実はあの蜘蛛を見てからというものそんな不思議な事がたまに起こるようになってしまったからだ。暑い夏のある日、田舎での墓参りの帰り際に親族の墓石の向こうに立つ老夫婦を我が子と見かけた。家に帰った後であの人達は知り合いなのかと子供が親族に尋ねたところ自分たち二人以外に誰も見ていない。体格や服装を話したところで顔を真っ青にした親族が昔の写真を引っ張りだしてきた。これか?という。果たして今まで一度も見たことのないその写真の中の人は、今日見かけた二人と体格のみならず着物の柄まで一致しており我が目を疑った。墓の中にいるはずの二人だった。親戚もびっくりしていたが着物の柄を言った時にピンときたそうである。
夜の海に行った時に気付かないうちに海の中に引っ張りこまれて、我に返った時は砂浜で俺の名前を叫ぶ家族と友人がいたり、高速道路で男が歩いているのを見かけたところ同乗者の誰も見ておらず、ふとカーナビを見ると脇が墓地であったり。難儀なものである。できることならばこんな能力はいいから、もっとマシな能力、例えば人を傷つけないで済むような能力が欲しかった。
唯一この能力があって良かったなと思うのが住む家を選ぶときに悪いかどうか一発で判るくらいのものである。もし自分が不動産屋だったらきっと毎日がスリリングであったに違いない。
このことを知っている友人の一人は俺が遊びに行くともし何かが居ても絶対に言ってくれるなという。

言えるわけがない。だからあんまり来ないんだなんて。