ふいっと入った横道にはなんだかよく分からない標識があった。
「行き止まりません」
行き止まりがあるというのならば解るのだけれど「ない」とは一体どういう了見か。
表通りから見えたビニールのひらひらが垂れ下がる三輪車のせいで、ついつい寄ってしまったこの小道。実際なんだか少しおかしい。

乾電池の自動販売機、錆びついた家族計画、庭先に見える二層式洗濯機、ホーローの看板。なんだか懐かしい物ばかりではないか。もっと見たくてついつい奥へ入ってしまう。こんな辺鄙な所にある丸ポストなんて一体全体誰が回収に来るというのか。
塗装が剥げた井戸のポンプ、電線の緩む木製の電信柱、ミリンダ自販機、アナログアンテナ、屋根上に見える物干し場。覗き窓がくすんだガチャガチャの銀盤には二〇円とだけ書いてある。煮物の香りはするくせに人のいる気配がしない。ラジオの雑音にのる張りのある男性の声だけがどこからだろうか聞こえてくる。
これはいささか良い道を見つけた。まるでセピア色の小道ではないか。

あっという間に通り抜けた反対側はいつも良く知る大通りだった。仰げば日陰を作るためだけにあるようなビル群が立ち並んでいる。もうそろそろ昼休憩も終わってしまうはずだ。少し遠回りになってしまうので来た道を戻ろうと振り返る。
が、果たしてそこには道などなかった。行き止まれないとはそういう意味だったかと合点がいく。

たまには化かされるのも悪くない。
僥倖、僥倖、べりーらっきぃ。