気が付くとそこは病院のベッドの上だった。目の前にトラックのバンパーがスローモーションで迫ってきたところまでは記憶に残っている。しかしそのあとのことが全くわからない。真っ先に手の先を見て指が全部揃っていることを確認した。順々に体の部位を見ていくけれどどこも大怪我をしている様子はなかった。唯一頭に包帯がくるりと一巻きされていた事くらいだろうか。

「重症ですね」

 主治医とみられる白衣を着た男性は言葉を選ぶ事なくそう言った。
「外傷は軽く、日常生活に支障はないと思われます。しかしーー」

 おもむろに僕の胸に手を当てるや否やいきなり何かを取り出す。
「これです」

 目の前に出されたのは歪に縫い合わされたラクビーボールのようなものだった。
「心がこんな風になってしまったのです。普通はハート形をしているのですが」

 確かにハート形とは似ても似つかない形をしている。それは所々が隆起していて歪でありとても座りが悪そうだ。
「現代の医学ではこれが限界なのです。大変申し訳ありません」

 謝られたところでそれが自分にとってどんな影響を及ぼすことなのも分からないし、不安を持つには情報が少なすぎた。どうやら僕は事故のショックで飛び出してしまった心にひどい損傷を受けてしまったらしい。いくつかの心のパーツは飛ばされてしまい、今はそれ無しに心が縫い合わされているということだった。

「何かあったらすぐに此方に来てください。お大事に」

 追い立てられるように病院を後にした僕は一人暮らしをしている2Kのアパートに戻った。郵便受けには広告の類と電気、ガス、水道の請求書が入っている。
 一週間程も家主が不在だったにも関わらず、部屋は生暖かい空気をたたえているだけで歓迎の素ぶりもなかった。窓を開けて空気を入れ替える。冷蔵庫には二缶程ビールが残っていた。

 プシュっ、という音とともにビールを開ける。心を怪我したといってもビールは美味いし風も心地良い。一体何を失ったというのだろう。トントンと胸を叩くと欠けた部分のせいかゴロッゴロリと音がする。

 そんな訳で心が欠けた僕の第二の人生が始まった。