内定取り消しの知らせを受けたのは病院から帰ってきて数日後の事だった。あーこういう時は理由を聞かなくてはいけないよな、と電話の声を聞きながら他人事のように思う。

 どうやら入院中に内定者懇親会に関するメールに返信ができなかったため、会社に事故の事を知られてしまったらしい。心の一部を失ったという事も知っているのだろうか。最もらしい理屈をつけているようだったけれどまったく頭に入ってこなかった。担当者の声が必死なところをみると、きっと知られているのだろう。

「おっしゃりたい内容はわかりました。ただ自分では御社の言う内定解除の理由が一般的に正当にあたるものなのかどうかわかりかねます。法律に詳しい人間に聞いてからまたご連絡させて下さい。本日は頭痛が酷いため、大変申し訳ありませんが電話を切らせていただきます。ご連絡ありがとうございました」
 電話口から少し慌てているような声が聞こえたけれどそのまま電話を切った。途中から始めた通話録音を止めてスマートフォンの電源を落とす。もうこの内定はどうせダメだろう。

 まぁ仕方ない。しかしこのままだと、どうやら僕は無職になってしまう。パソコンを開いてまだ会社員の経験も無いくせに転職サイトに登録した。今バイトしているビデオレンタル屋の社員募集も検索してみる。募集はしていたけれどあまり魅力を感じなかった。ここは最後に考えることにしよう。
 検索に引っかかった大型の会社説明会に二つ登録し、小さいながらも不動産業を経営している叔父に弁護士の知り合いを紹介してもらえないかとメールを送ってみることにした。

 時計を見て六時を過ぎている事を確認してから、スマートフォンの電源を入れる。内定を取り消された会社からの着信が三件ほどあった。頭が痛いといっているのにこれが社会というものなのだろうか。
 着信履歴は放っておいて、メッセンジャーで心当たりのある友人達にメッセージを送った。心の一部を失った事を話したのは3人だけだ。

「えっ。あー、OBの先輩からお前について電話がきたよ」
 個別に内定を失った事を送ると早速その内の一人から返信が来た。ビンゴか。
「とても悲しいよ」などと思ってもいない事を返信してスマートフォンの電源をまた切る。そう言えば彼はこの会社の内定は取れなかったんだ。色々複雑な気持ちもあったのかもしれない。これから先彼に心のことで相談をするのはやめよう。長くなるかもしれない言い訳を聞くのは今度にしようと思った。

 しかし困った事になったものだ。一般的に相当落ち込んで良さそうな事案なのに全くショックが湧いてこない。これは心が欠けているせいなのだろうか。それとも自分は元からこんな感じだったのだろうか。
 色々考えながら行動をするためか、やたらと疲れるようになった。自分のしようとすることが常識に当てはまるのかどうか、過去の自分と比較して変わっていないかどうかをいちいち考えてから行動している。けれど完全に納得できる行動なんてできなかった。過去の自分が他人過ぎていちいち気持ちを思い出せない。

 そうだ、大事な事を忘れていた。スマートフォンの電源を入れると着信通知がまた増えている。メッゼージを返した友人からのものだ。やっぱり今日話したいのかな。着信履歴から電話帳を開きブロックリストに入れる。別の二人の友人にはやはり退院してから少し疲れているようなのでしばらく実家に帰ろうかと思う、帰ってきたらまた連絡するとだけメッセージを送った。
 保険会社の担当者の連絡先を探して内定を失ったことをメールで送る。トラックの運転手への賠償にこのことも加味してもらう事は可能かどうか教えて欲しい。将来の仕事を失ったのだからこれくらい必死になってもきっと普通だろう。

 思いつく限りのやれることは終わったのでチャーハンを作ることにする。冷凍してあるご飯を炒め卵と醤油とハムを放り込めばいい。塩コショウは最後にしよう。気がつくと鼻歌交じりで調理をしていた。困った困った。頭の中で呟く言葉がやけに鼻歌とハモっている。

 明日は駄目元で病院に行ってみようか。おかしくなっているのかどうか判らないことはおかしいことに違いない。

 チャーハンは少し焦げた醤油のところがとても美味しかった。

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