何度となく空を見上げた。ホロホロドリが飛んでいるのではないかと思ったからだ。子供の頃に絵本か何かで読んだのかもしれない。あの架空の鳥はいつになったら本当に見えるようになるのだろう。さぞかし有名な鳥に違いない。そうだ、きっと誰かがあの鳥の絵を描いている筈だ。見たい、と思った。

 インターネットで調べてみると、ホロホロドリという鳥はその姿を描かれているどころか実在していた。原産地がアフリカのキジ科の鳥で食卓に並ぶ類のものであるらしい。しかし写真に映るその姿は自分が思い描いていたものとは似ても似つかぬものだった。初めましてね、さようなら。

 それではあれはなんなのだろう。ハゲタカのような黒いフォルム。長く延びた嘴の内側に歪に生える細い牙。ものを射抜くような緑色に鈍く光る眼球とその周りを囲む黄金の瞼。飛んでいることをすぐに忘れてしまうため数メートルごとに羽を止めてそのたびに少し下降する不器用な飛び方。見たこともないくせにやけに鮮明に思い浮かぶあれは一体なんだというのか。

 そうだ。今までずっとホロホロドリと呼んでいたけれど既にその名前が使われているのであれば名前を付けてやらなくては。でないと自分の頭の中にしか居ないこの鳥は消えてしまうかもしれない。急がなくては。ホロホロドリのように少し間抜けな、それでいて耳に残るような名前が良い。バルバレドリ、ダイカナドリ、アナブサドリ、コルコルドリ、ポラタナドリ。いくら考えてみてもなかなかしっくりくるものが浮かばない。あれやこれやあれこれや。

 そうだ、ボサボサドリというのはどうだろう。なんだか生臭な感じもそこはかとなく漂う良い名前だ。調べてみるとどうやらボサボサドリという鳥はまだこの世に存在しないようだ。ちょうど良かったこれにしよう。
 ボサボサ、と声に出してみるとそのうちしっくりきそうな響きがある。

 やっと決まったと安心し、腕時計に目をうつすと優に一時間はたっていた。空想の鳥の名前を考えるにしては少々時間を使い過ぎてしまったように思える。人生は短い。インターネットを見ると時間の隙間を埋めようとするかのように次々と文字が流れていく。自分も生き急がねばと慌てて文字を追いかけ始める。そんな頭の片隅で、ボサボサドリがやっぱりフラフラと飛んでいた。せっかく名前を付けてやったというのにこちらには目もくれずに飛んでいく。

 いつでも頭に思い描けるようになったそれを見て、名前を付けて良かったと思った。