月の光が冷え切った砂漠を照らしている。砂漠の夜は氷の世界。しかしそこに水分などあるはずも無く、ただ冷たく乾いた風が砂の大地を洗っているだけだった。

フードを纏った男が歩いている。腰を屈めて杖を持ったその姿は初老と呼ぶには老い過ぎているかもしれない。円錐の堆積が立ち並ぶ砂の世界にポッカリと浮かぶ平らな台地。男はそこを目指しているようだった。

直径15メートルほどの平らな頂上にたどり着くと男は地面に何やら書き始めた。まるで杖が男を突き動かしているようだ。
大きな円。男は描きあがったその中に今度は少しだけ径の小さな円を書き始めた。時計だろうか。円の出来に男は満足しているようだった。月の方向を見た後、今度は二つの円の狭間に文字を書きだす。

rat、dragon、monkey
3つの名前が三角形を作り出すように書き足されていく。
tiger、hourse、dog
ox、snake、rooster
rabit、sheep、boar

それらの文字はそれこそ時計の文字盤のようにみっちりと2つの円の枠に収まっていた。名前を描き上げた後も男は手を休めない。今度は名前と名前を線でつなぎ始める。

Chinese Zodiac

男は名前同士を繋げ次々と三角形を描き上げていった。冷たい風にフードが引き剥がされる。そこから現れたのは薄汚れた長髪に醜く伸びた髭の老人だった。老人はまるで死に急いでいるかのように見える。どうせすぐに消えてしまうだろうに、杖を引き千切らんばかりに地面を引っ掻いている。
果たしてそれは出来上がり、体を引きずった老人は円の中央に向かう。老人がそこにたどり着くや否や、砂は突然生き物のように動き出し彼の体を飲み込み始めた。自らの身体が砂に飲み込まれるのを薄ら笑いで受け入れていた老人が突如絶叫をあげる。
絶望の顔は天を見上げ何かを訴え始めた。やがて砂は彼の首元まで吸い込むと、最期の一息とばかりに大きく奈落への口を開いた。

Tiger,Sheep,Boar
Rabbit,Horse,Dog

それは歪な象形だった。TigerとRabbitの位置を取り違えてしまっているのだ。
月の光が冷え切った砂漠を照らしている。あたりに人の姿はなく、ただ冷たく乾いた風が砂の大地を洗っている。砂漠に残された象形は月明かりに照らされて薄ら青く光っているように見える。

老人は何のために砂漠にこんなものを残したのか。それはまた別のお話。