儚という漢字は人の夢と書く。などと戯けたことをいう人がいる。

そもそも落とし所をそれっぽく虚しいところに置こうとする姿勢が余程の根暗か一種の理想主義の塊のような気がする。たいして興味のない言葉に無理くり正当性を付帯させようとするその姿勢は正真正銘の邪鬼のようだ。

にんべんといえば鰹節ではないだろうか。おでんのつゆにもよく合う。だから儚という漢字を鰹節の夢と読むことにする。鰹節というのは化石であり本来の主成分は時間だ。たくさん寝るのだから夢も沢山見ることに違いない。鰹節の夢。それはやはり夜にひらくものなのだろうか。

鰹節の塊の中には実は生の鰹がこっそり隠れているのではないかと言われている。硬い殻に守られた極小の刺身。それを取り出して炙りにする至高の食べ物。どう考えても旨い。旨すぎるに違いない。藁を集めなくてはいけないし火も起こさなくてはいけない。

そんな事はやってられないので、鍋に入れた水を火にかける。沸く。わっくわく。荒布に包んだ鰹節を放り込み煮立たせ過ぎぬように出汁を取る。出汁の下心を塩でたっぷりとお清めして醤油を色付けにほんの少しだけ入れる。少し濃い目に調ったスープは具材を待つだけとなった。

性悪の大根を桂剥きにやっつけて投入し揉め事が起きないようにしなければならない。ツミレ、じゃがいも、ごぼう巻き、モチ袋、こんにゃく、牛すじ、ガンモ、さつま揚げ。惜しむことなく次々に部隊を投入していく。隠し持っていたゆで卵を投下。最後にはんぺんで蓋をする。

なんでここまでせにゃならんのだ。段々と腹が立ってきたのでおでんと一緒に飲もうと思っていた日本酒に手を伸ばす。空きっ腹に効く百薬の長。つまみはまだ鍋の中なので柚子胡椒を舐めながら妖怪になった気分で酒を飲む。

鍋を見る。まーだだよ。酒を飲む。美味すぎる。大根を見るが長風呂好きはまだ顔が真っ白で平然としており色気のかけらもありゃしない。
鍋を見る。まーだだよ。酒を飲む。美味すぎる。はんぺんを見る。まだまだ白い肌は全然柔らかくなっておらず、こりゃまた難しいものだなと呆れてしまう。
鍋を見る。まーだだよ。酒を飲む。美味すぎる。そんなこんなでおでんが色付く頃にはスッカリこちらが出来上がってしまう。俺一人が酔っ払ってしまっている。作戦か。これが作戦だったのか。

石のスープという民話がおでんについて書かれた話だと判って本当に良かった。
忘年会のお誘いが始まるこの季節、紳士淑女の皆様には気を引き締めて行ってほしいなと思う。

そんな事ばかりを考えながら真面目に細々と生きています。