チョコレートの栞 ― ジャングルノート6話

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 机の上に造作なく置かれていたチョコレートの箱を千切り、栞の代わりに本に挟む。

 
 やっと半分程読み終えた。もうとっくに読み終わると思っていたのになかなか読み進まない。この本に書かれていることは全くの作り話なのだろうか。それにしては妙な臨場感があり時折カラフルな絵が頭の中に飛び込んでくる。作者の心情は乾き過ぎていて良く分からない。現実の世界の事ではないと頭では分かっているが現実と虚構が捻れて不思議な感じがする。フワフワしている。実は全て本当の話なのではないかとすら思い始めている。
 
 そもそも本というのはそんなものかも知れない。紙の中に閉ざされた世界。こちら側から本の世界を覗くことはできる。しかしあちら側からはどうなのだろう。この世界こそが本の中である可能性は無いのだろうか。いや、そんな考え方はおかしい。そもそも明らかに虚構とわかるこの本を読んでどうしてそんな事まで考えなくてはいけないのか。こんなのどこにでも転がっている子供向けの絵本みたいな話じゃないか。
 
 妙に頭が疲れてしまい、タバコを吸うことにする。吐き出された煙の残煙が頭の奥にニコチンを流し込む。そうだ、この話は緩やかに頭の中に流れ込んでくるのだ。
 もしかしたらこの本には幾つかの本当の事が紛れ込ませてあるのだろうか。そして其れこそがこんな馬鹿げた事を考えさせているのかも知れない。まるで朝顔の種に含まれる毒のようにそれがゆっくりと効いているのだとしたら、なんだか少しだけ説明がつく気がする。だとしたら、それは一体なんなのだろう。ギャンブルで人生を踏み外した男、会計事務所に勤めていた男。それくらい事実が紛れ込ませてあるくらいでこんな風になるだろうか?
 
 ーーこの作者は過去に本当に人を殺したいと思った事があるのかも知れない。 
 そんなことをふと考えた。部屋に燻るタバコの煙の奥で表紙に描かれたクロコダイルは下卑た笑みをこちらにに浮かべているように見える。
 
 本に戻るとしよう。
 
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