子供ピストル

この記事の所要時間: 1 25

子供の頃、銃の音と言えばバッキュンバッキュンだった。みんながバキューン、バキューンなどと言っていても僕はバッキュンバッキュンをやめなかった。ズキューンという奴にはそれガンダムじゃんかなどと文句さえ言っていた。ずっとバッキュンバッキュンだった。思えばテレビをあまり見たことがなかった。

バッキュンバッキュンがおかしいと気づいたのは小学校になってからだ。バッキュンバッキュンだと連射できない。バキューン、バキュンバキュンバキューン。このパターンだと4発まで連射できる。バッキュンバッキュンをやめた時、周りではダダダダダッ、ドゥルルルルなどという奴らが出始めていた。機関銃の真似をしていたのだ。僕は一度覚えたものをそうやすやすと手放したりはしない子供だった。みんながどんなに巻き舌で唾を飛ばしまくっていてもバキューン、バキュンバキュン、バキューンに夢中だった。いつかダダダダッ、ドゥルルルルを使う日もくるだろうと思いながら。しかしそんな日は残念ながら訪れなかった。みんなそんな遊びをしなくなってしまったからだ。そんなことを考えていたことさえいつしか忘れた。

今思えば大人になるにつれて僕が聞く銃の音はどんどん変わっていったように思う。スパイは防音装置を付けてプシュッなんてビールを開けるみたいな音を出し、戦争の音はパパパパパパパパンと壊れたクラッカーのような音をジャングルに響かせていた。

「バキューン」
今、僕は君の小さな人差し指に撃ち抜かれた。どこか懐かしいあの音で。

「プシュッ」小さな銃口を見ながらビールを開ける。君が大きくなっていくこの世の中がどうか平和でありますように。

チャーハンは少ししょっぱい

この記事の所要時間: 1 40

 国語が苦手な子供にとって詩の授業などというものは苦行以外の何物でもないのかもしれない。自分は国語ぐらいしかマトモな点数など取ったことが無いので、まさか自分の子供が国語嫌いになるとは思ってもいなかった。

 子、曰く。詩というものは「書けぬ、判らぬ、なんじゃこりゃぁぁ。うがぁぁ、こうなったら謀反したる。幕府爆発バイオレンス即爆発」だそうで。流石に一人の親として「そんな性急なことをしてはいけないよ。平和大切。ノー・モア・ウォー」と諭すことにした。

 しかし代替案なしに平和条約など結べない。仕方がないので「じゃぁライム、連想、繰り返しなどを使ってみるというのはどうだろう」などと表面から詩を攻略してみることを勧めた。するとまぁこれも当然だろう、例を寄越せと言う。実は自分も他人にわかってもらうような詩を書くことは苦手なのだ。

『ぎょうざ、チャーハン、かぁちゃん』

 突然ひらめいたこの言葉を子に告げた。なんだこりゃ。なんてことない言葉が妙に頭にこびり付いてくる、リフレインしやがる。

 お世辞にも裕福とはいえなかった自分にとって母の手作り餃子というものは、どんな珍味だろうがステーキだろうがいらねぇ、俺はいらねーからあの餃子食わせろ、なんてものであり、そこに好物の炒飯。これはもう明らかにやり過ぎている。もう二度と手に入らないものに限ってありありと思い浮かびやがるくせに限りなく遠い。

 自分の内面を子供によって気づかせられるようなことがわりとある。そんな時、子供は大抵「自分はなにか良く分からないものを目にしているのだ。それだけはわかっている」という事をこちらにアピールするかのように首を傾げる。きっとその通りなのだろう。いつかこの子がこの言葉を思い出してはくれるだろうかなどと俺は迂闊にも思ってしまう。親のエゴだろうか。薄暗くて寒かっただろうあの台所が瞼の裏に浮かんぶ。

『ぎょうざ、チャーハン、かぁちゃん』

 子は次の例を寄越せという。

清らかな嘘

この記事の所要時間: 0 43

口紅のシャトルが銃の弾の形をしているという意味を最初に考えたのはいつだろう。

弾丸を火の中に投げ込むと爆発するらしいと聞いて、だとするならば口紅を火の中に入れても爆発するに違いないと信じた。

試したことはないが今でもなんとなく、そうに違いないと思っている。

コロンは毒。毒の霧を身体にまぶし嘘をまとう。きっと毒は嘘と相性が良いに違いないし、混ざることによって得体の知れない艶を生み出すであろうこともなんとなくわかっている。

なんの根拠もない、そんな風な憶測をどれくらい長い間してきたのかなど忘れた。ずっと前からしてきた気もするし結局は大人になってから考えるようになった気もする。

自らは毒に染まらずに化粧ができる。女とはなんと清らかなのだろう。

テキストに化粧をしてみたら、なんだかできの悪いグラムロックみたいだ。

ラファエル田中

この記事の所要時間: 4 1

「じゃあ名前はなんて呼べばいいかな」
「田中です」
「田中?ラファエルじゃないの?」
「役名はそれです」
「じゃぁ、田中さん。他の人は?」
「ちょっとみんな色々あって。清水さんはお子さんが熱出しちゃって今日は代役で鈴木さんが来ます」
「清水さん?」
「あ、エレーナです。ヒロイン役の。清水さんシングルマザーで大変なんですよ」
「・・・えぇっと。代役は・・・鈴木さんだっけ、鈴木さんは?」
「彼女は遅刻常習者なんで、あっ、でも30分以内には来ます」
「30分?本当に来るの?俺あんまり時間ないんだけど。困るなー。でも後一人いるはずだよね。凄腕の剣士役の人」
「はい。30分以上遅れると罰金なんで皆さん来ますよ。剣士。あぁ加藤さんですね。加藤さんは台本だとシーン2まで出番ないんでそれまでには来るかと」
「あーそっか。じゃそれまではいける感じ?なんとかなりそう?」
「そうですね、なるべく台本の進行は崩さない感じでなんとか」
「そっか、わかった。で衣装はどうしようか?流石にそのアディダスのTシャツはないよね」
「はい。鎧は2パターン。つや消し黒の鎧と普通のシルバー。剣は片手剣と両手剣があります」
「じゃ両手剣でいってみよっか。カッコいいし。主人公っぽい。鎧は普通のでいいや」
「あ、えーっと・・・。僕、両手剣の演技苦手なんですよ。あれ重くて。片手剣じゃダメっすか?」
「えー、マジかよ・・。うーん。じゃいいよ片手剣で。最初はどんな感じ?」
「最初は仲間の紹介やら強さをアピールしながら回想でストーリーを繋いでいく感じですね。それで最後の敵の部分だけは最初にガンガン仲間がやられていきます。そこから主人公である田中とボスの戦闘シーン。もちろん最初はボッコボコにやられるんですが、何故か一人ずつ倒れていた仲間が立ち上がり、最後に皆で倒してハッピーエンドです」
「そこは田中とボスじゃなくてラファエルとボスって言おうよ。って言うかそもそもダメじゃん。だって仲間居ないよね、今。」
「そうなんですよねー。取り敢えず軽い敵を倒して加藤さんの出番まで引きます。導入部分も買い物シーン長めにして尺稼ぎしますから」
「まじか。そのぉ、、取り敢えず一人で倒す軽い敵ってどんなの?ゴブリンとかそういう奴?」
「スライムです。ゴブリンは・・・ちょっと強いんで。いつも倒せるかギリギリで。あと・・・昨日・・・寝違えちゃって・・・」
「え、、本当に?田中さん主人公だよね?おかしくない?本気?」
「はい。頑張ります」
「不安だわー。本当頑張ってよ。でもまぁ今日は初日だし。田中さんは今日が演技初めてじゃないよね。わかった。とにかく見せてよ」
「はい。わかりました」
「じゃどうすればいい?」
「はい。まずはそこのそれつけてください。第一章、シーン1の街のイメージで始めます。あとは僕の動きを追いかけてもらえばなんとか」
「うん。わかった」

本の上にホログラムで浮かび上がる田中ラファエルを見下ろしながら、脇に置いてあったVRヘッドセットをつける。暫くすると頭の中の30センチメートル前、現実と非現実の間に、中世を模した街が現れた。

−−最新型のVR書籍

見出しの次のページにあった主要人物紹介は三人。そのうち二人がまだ来ていない。

 

「じゃぁ、始めますんで」
VRに内蔵されたヘッドフォンから街の雑踏と軽やかなBGMが聞こえて来る。目の前にはちゃんと冒険用装備をまとった田中・ラファエルが居た。道具屋で足りない装備を揃えるようだ。

おい、田中・・・。
なんで道具屋にチョコレートがあるんだ。おい、、、キットカット買おうとするなよ。
どうして買い物かごにイオンって書いてあるんだよ。スポンサー、もしかしてスポンサーなのか田中・・・。
頼む、頼むから買い物かごを姉御持ちしないでくれ。
そこに一列に並ぶのか。道具屋なのにラインが引いてあるのか。
おい、田中、なんでその時代にレジスターが有るんだよ。
しかもSuika対応かよ!!!
ポイントカードってなんだよ!
今日はイチのつく日かよ!!!
あぁ、もうダメだ。何やってんだよ・・・。
一番大切な薬草を忘れちゃ駄目じゃんよぉぉぉ。
 
カメラワークが得意気に切り替わる。
鎧の隙間から見覚えのあるTシャツの裾がはみ出ていた。

田中、、、田中、、田中ァぁぁぁ。
お前本当にスライム倒せんのかよぉぉぉ。

バイト前にちょこっと試そうと思った自分が悪いのかもしれない。しかしそんなことを反省する以前に何か根本的に間違っている気がする。

本のタイトルは『皮肉な冒険3D』

正直この先不安しか無い。

二日六月

この記事の所要時間: 0 24

おはようございます。と言うか深夜なんですけれども。

大変残念なことに後一日でまた一つ年を取ってしまうという悲しい事実。

悲しさを吹き飛ばそうとキンドルにて販売している拙書アバラハウスを本日夕方5時まで無料にしてみました。
 
アバラハウス by 銀座愁流
 
すっかり告知を忘れていてこんな慌ただしい感じで申し訳ないです。
よろしくお願いいたします。

九日五月

この記事の所要時間: 0 43

 考えを述べているテキストに太字の強調を見かけると違和感を感じることがある。解りやすくするために付けているのだろうが思考の押し付けに見えてしまうのだ。強調したいのならば言葉でしてくれ。そんなときにふと浮かぶ「五月蝿」という言葉。なるほど良くできた言葉だ。

「永い言い訳」という映画を見た。強調が何一つ無い映画だった。だから全く五月蝿くない。物事と登場人物の時間だけが淡々と進んでいく。観る側が何を言わんとしているのか探さなければならない種類の映画のように思えた。

 そんなことをしてしまうものだから観終わった後、思考の中にちゃっかりこの映画の居場所がつくられてしまった。暫く調子の良い鍛冶屋は聞きたくないものだ。

 誰々の演技が上手かったとか下手だったとかそういう種類の映画では無い。

 この映画の主役は監督だと思う。

八日五月

この記事の所要時間: 0 35

休み明けの朝の感覚は日常に還るという表現に尽きる。
逃げようと思っても抗えないそれに立ち向かうでもなく、流されるでもなく馴染もうとしている自分がいる。
Ordinary Albertという絵本を読んだ。何処にでもいる普通男。アルバートが普通ばかりの日常に危機感を感じて旅に出る話だ。もしかしたらアルバートではなくアルベルトかもしれない。

旅にはいつか終わりが来る。それが旅先で迎えるものなのかどうかは誰にも分からない。
それこそ今自分のいる場所が旅先なのかどうかさえ解らないこともある。

できることは今を生きることだけ。
休み明けの体はそれをわかっているのかもしれない。

タンザニア

この記事の所要時間: 0 59

何飲む?

高校を卒業したばかりの俺にマスターはどの珈琲を飲むのか聞いてきた。豆の種類など分かるはずもなく、正直に聞くとどんな珈琲が飲みたいのか言えと言う。

あまりあっさりしてないものが飲みたい。

目の前に出されたのはタンザニアという豆の珈琲だった。

ミルクも砂糖も入れず飲んでみると透き通った珈琲の苦味と軽い酸味が口の中に広がった。喉を通り過ぎた後も珈琲の香りが消えない。なるほど珈琲って美味いなと思った。

幾度となく通ううちに珈琲屋のマスターは夢を売る商売だと思うようになった。マスターの話はいつも厭世的で何処と無く現実味を持っていなかった。そのくせ世の中なんとかなるということを身を持って体現している楽天家のようなところもあり、そんな彼の話を聞きに来る客も少なくないようだった。

あれから色々あった、月日も流れた。けれどあの初めての珈琲の味は今もハッキリと残っている。

ありがとうマスター。遠い異国の地であなたの死を受け止めている。今でもあなたを思い出す度にあの珈琲の記憶が蘇るよ。

叔父の淹れる珈琲を超えるものはまだ飲んだことが無い。

七日五月

この記事の所要時間: 0 22

昨夜夢の中で誰かと肌を合わせたようだ。

顔も名前も体も何も思い出せない。
そのくせにたしかにそんなことが合ったという記憶だけが抜け殻のように残っている。
まったくなんとも器用な夢を見るものだ。
これで良かったのだと思う自分もいる。

一人寝床から起き出し朝のコーヒーを飲む。
カーテンを開けると少し肌寒くなってきた秋の朝が柔らかい光を庭に届けていた。

蜂蜜秘密

この記事の所要時間: 0 34

さぁそこをまっすぐ通り抜けて
余計なところは絶対に触らないでください
右の壁は敏感で左の壁は不用心です
溢れそうになった所をそおっと指で掬うのが美味しいのです

ほうらそこは駄目だと言ったでしょうに
もとの道に帰って下さい
そうですそこで良いのです
そうですそこがいいのです

ほらほらそこは舐めてはいけませんよ
息を吹きかけてもいけませんよ
ここは酸素が薄いのでとても胸が苦しいのです

全く悪い人ですね
全然言うことを聞かないじゃありませんか
貴方が何処に居るのかわかりますか

そこはわたしの巣なのです
はちみつのことは秘密ですよ