家に帰る土手の途中で彼を見つけた。
ーーなにやってんの?
「うん・・・。たんぽぽの花のかず、数えてた」

ーーそっか。またライブやるんだって?
「うん・・・。バドハウスでやるって」

ーーそっか、チケットまだあるんじゃない?あたし買うよ。
「うん・・・。トシローが全部持ってった」

 ぱんくくんは言葉足らずだ。誰も彼の本名を知らない。実は親がとてもお金持ちで働く必要がないだとか、少年院に入ってる間に親に捨てられたんだって噂があったり。でも彼はとっても優しい奴で私達は彼が大好きだ。

ーーえー、またぁ?みーんなトシローがチケット持ってっちゃうじゃん。絶対あいつ何処かでちょっと値段上げて売ってんだよ。いいやあたし、ミチルから買おっと。
「・・・ありがと」

ーー今日はドコに泊まるの?
「うん・・・。トシローんち」

ーーえー、たまにはあたしんちに泊りにおいでよ。カズヤも喜ぶよ。ね?
「うん・・・。ありがと。でも・・・今日練習あるから」

ーーそっかぁ、じゃぁ一緒に帰ろ。
「うん・・・」

 ゆっくり立ち上がるぱんくくんを後ろに感じながら、私は家の方に向かって歩きだす。

「・・・74個」

 ぱんくくんはパンクバンドのボーカリストだ。歌ってるときの彼はとても賢そうで、本当はちゃんと話せるんじゃないの?と思ってしまう。でも一緒にいたらすぐに分かる。ぱんくくんはチョットだけ遠い。横に並んで歩きながら少し肌寒くなってきた9月の風を感じている。ぱんくくんは馬鹿みたいに革のパンツと黒のライダースを着ていてなんだか暖かそうだ。
ーーぱんくくんさー今度何やるの?
「ラモーンズ・・・と・・・ピストルズ・・・」

ーーピストルズまたやんの?やめなよ。こないだもなんか変なやつがダイブしてたじゃん。また怪我するよ?
「うん・・・。でもトシローやりたいっていうし・・・」

ーーぱんくくんさー、前バラードみたいなやつ歌ってくれたじゃん。キーボードきながら歌ってくれたやつ。あれ良かったよ。あーいうのもっとやってくれたらいいのに。
「かるま・ぽりす。うん・・・、そうかぁ・・・。うん・・・多分・・・。そうかなぁ・・・」

 ぱんくくんは多分頭の隙間が少し足りなくていっぱい考えると奇声を上げたくなったりしてしまう。それを止めるために自分の腕に噛み付いたり、頭を壁にぶつけたりしてしまうんだってカズヤが言ってた。
 まるでニワトリのように少し小刻みに頭を動かしながら歩くぱんくくん。

ーーぱんくくん、ぱんくくん!
「うん・・・。うん」

 ギグの時はあんなに怖い顔をするのに今は弱々しい子ヤギのようだ。ぱんくくんは頭に多分何か爆弾を抱えているし、人よりほんのちょっとだけ変かもしれない。でもみんな彼が大好きだ。彼の声には艶がある。私は神様が2つの才能を与えないっていうのはきっと本当のことなんだと思っている。彼らのバンドは荒いファンも多いけれど最近お客さんの入りがいい。前のボーカルがやめてぱんくくんに変わってからファンが増えたんだと思う。

 やっぱりぱんくくんは自分の世界に入ってしまってるみたいだ。
ーーぱんくくん、ぱんくくん!
「うん・・・。うん、、、うん、、、うん。」

ーーあたしとまたえっちな事したい?
「あ。う・・・。うん」

ーーふふふ。また今度ね。帰ろう?
「うん・・・。うん」

 二人してただ並んで土手を歩く。ぱんくくんはギグでやる曲を鼻で歌ってる。こんな日も幸せだなって思いながら私は土手に長く伸びた影を目で追った。みんながいつまでも一緒だったらいいのに。

 少し泣きそうになってる私の隣でぱんくくんは鼻歌に夢中になっている。

#小説