山の頂。濡れそぼった鬣はぴったりと体に吸い付くようだった。幾重にも絡み合うように頭から背中へむかって伸びる角は先端が火に熱されたように赤く光を放っている。透き通る駱駝色の体毛は息を飲むほどの金色を思わせ、尾に向かってなだらかに続く引き締まった体躯は薄光の中にも艶を持っていた。

 逞しく地面につく蹄はいつ大地を削ろうかと機を伺っているかのようだ。よく見ると翼のようなものが踵についている。空も飛ぶためのものかも知れない。薄く開いた口からは鋭く尖る牙が伺う。善も悪もない。高貴な存在でしかないそれは三頭で群れを成して同じ方向を向いている。今頃はきっと茜色に染まっているかもしれない遥か先の大地を見つめているのだ。雲海は風にうねりを生み出しながら彼らの周りを流れてゆく。

 爛々と光る眼は確固たる目的を持っているように見える。一頭のそれが獅子を喰らう馬のような咆哮をあげると彼らは風になった。下界へと向かったのだ。理由なんて無いのかも知れない。ただ自由であることこそが彼らの役目なのかも知れない。彼らはきっと喰らい尽くすのだろう。それが悪のみであることを願うのは人の弱ささに違いない。

 緩やかに波打って見える三本の矢。彼らの足取りは薄暗い空に白い軌跡を残し、もはやその先端は遥か彼方。

 誰も居なくなった山の頂には、まるで初めから何も無かったかのように冷たく湿った風が吹いている。