ビールが飲みたいと思った。頭に浮かぶのはキリンラガービール。あの麒麟のロゴを見るたびに不思議に思うのだけれど、どうしてあいつはあんなにもすっとぼけた顔をしているのだろうか。どう見ても間抜け面にしか見えない。だんだん腹が立ち、カーっとなってつい飲んでしまう。そこまで来てこのためかとやっと気が付くのだ。怒らせて消費を促すなんてなんと卑怯な作戦なのだろうか。全く憎いあんにゃろめ。

 しかし俺はとても慈悲深い男なのだ。麒麟はいつでもラベルに一人ぼっち。それが可哀想に思えて仕方ない。それ故に仲間を数頭集めて冷蔵庫に入れてやるなどという気配りをしてしまう。星は好きかい?ドア裏の収納スペースには星も入れてみる。サッポロ黒ラベルという輝く星を。

 あぁ良かった。これで安心だ。俺の冷蔵庫には霊獣と星がいる。完璧、完璧。気がつくと何故か手の中に一頭の麒麟がいるではないか。
「ややっ。お前・・・。俺について来たのか?お前ってやつは・・・」
 なんと人懐っこい奴なのだろう。ここは一つこいつを撫でながら野球でも見て大人のふりでもしよう、そうしよう。

 無音で緑色のゴム製のボタンを押すとテレビからプツンと音が聞こえてくる。何回聞いても消す音にしか聞こえないのだけれど、それでも点くというのだから仕方ない。そこには太って、禿げて、黄金に包まれた越後屋、お前も悪よのぉ。そんな嘘のような神様の姿が映し出されている。

「ぎゃー。いかーん。あかーん!!!」

 思わず声が出た。我が家の冷蔵庫には霊獣と星は置いてあるくせに神様が居てらっしゃらないではないか。そういえば以前に歳暮とかいう偽善者の嗜みで我が家にもあの神様をお迎えした気がする。麒麟に手伝ってもらいながら家中を捜索した結果、十二人もの恵比寿を見つけだした。お手柄、横四x縦三本である。是非とも次はもう一つ上のサイズでお願いしたい。捜索は難航を極めたためにすっかり家が散らかってしまった気もするがきっと気のせいだろう。今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。

 「あいやぁ、誠に申し訳ございませんでした。私としたことが今の今まですっかりと貴方様の事を忘れておりました。それもこれも全部この麒麟のせいでございます。何卒、何卒」

 信心深い俺は深々と平伏し、そのうちの一体を冷蔵庫へ御安置する。やはり一番のポジションである真ん中が良かろう。センター恵比寿。あぁ良かった、良かった。これで安心して野球観戦ができるぞと思うと既に試合は終わっており、応援しているチームは勝っていた。これが功徳と言うやつか。得心したので次は世界でも憂うことにしようとニュースをつける。トランプどーこだ。

「ピーンポーン」
 インターホンが鳴り響く。極めて不機嫌そうな顔をした来訪者は俺のハンコと引き換えに一つの箱を置いていった。俺の分身であるハンコと引き換えなのだからよほど良いものが入っているに違いない。果たしてやはり人類の宝のようなものが入っていた。

 確かエールというのは応援と言う意味だった筈だ。ヨナヨナエール、夜な夜な応援。全く危険で洒落た名前を付けよる。しかし既に俺の冷蔵庫には霊獣と星と神様が入っている。ここに応援まで置けというのか。そんなの飲んでしまうに決っているではないか。

「やむを得ない。
 やむを得ないんだ・・・。

 了解オッケイでぇーす!」

 一人の男がそんなことをブツブツ言いながら冷蔵庫を開けてニヤニヤしている。

 まったく不気味としか言いようがない。