川べりを名もない一羽の鳥が飛んでいく。よく見ると翼は所々傷つき、遠くからはツヤを持って見える羽も実はどんよりとした雨の色を含んでいた。

眼下に広がる街並み。今日もめぼしい餌は無かった。胃の中には自分一人がやっと足りるかどうかの餌。巣から餌場への往復の日々だ。明日こそたくさんの餌を獲ろう。

河原には例の生き物が座っていた。彼らはいつもとびきり上等の餌をたくさん食べている。見たこともないような綺麗な魚、甘い匂いのする柔らかいパン。あんなものが腹一杯食べられるのならば死んでもいい。そんな新しい餌を彼らは次から次へと手に入れることができる。だから時折こちらにいらなくなった餌を投げてよこしたり、あろうことか捨てたりもした。そのくせ彼らの捨てたものをこちらが拾おうとすると突然攻撃を仕掛けてきたりするのだからたまらない。とても凶暴な生き物なのだ。

彼らは鳴くのもとても上手で幾つもの声を持っている。変な形をした棒やら真っ黒な箱から時折とんでも無く綺麗なさえずりを聞かせてくれるのだ。彼らは巣の中でしか鳴かないので近くの細い足場からその音を聞くのが数少ない楽しみになっている。あんな声が出せたならきっと楽しいに違いない。

彼らはどこにだって行ける。四角い箱に乗ってどこまでも遠くへと行くことができるのだ。あの途轍もなく速く動く箱のせいで自分の仲間は何人犠牲になったのだろう。とにかく速く移動できる彼らにはもともと翼など必要ないのかもしれない。しかも彼らは飛ぶ術までも持っている。一度、それが大きな音を立てながら遥か遠い空の上までもの凄い勢いで消えていったのを見たことがあった。

狩りの疲れだろうか。またいらぬことを考えてしまった。子供たちは無事だろうか。これ程までに少ない餌でもなんとか死なずに育ってくれるだろうか。最近は巣の周りも傷み始めて来たことだし明日はそれの修理もしたい。この辺りもめっきり木が少なくなってしまったものだ。

あの生き物は微動だにせずに川の傍に座っている。まるでこちらを伺っているかのようだ。自分よりも弱い生き物に憐れみでもかけているのだろうか。

生きることは単調だ。どこか遠くへ行ってみたい気もするが自分はここを離れることはできないだろう。遠くに行くには歳を取りすぎた。まるで見えない何かに縛られているかのようだ。さぁ早く帰らなければ。夜には何も見えなくなってしまう。

鳥は沈みそうな夕日に急かされながら家路を急いでいた。河原にいた一人の人間がまさか自分のことを羨んでいたなどとは知る由もない。

河原には少しだけぬるい風が吹いていた。