もう仕事を引退してから20年程になる。生きることに充分なだけの金は手に入れたし夢や希望といった感情はとっくのとうに擦り切れてしまった。ビザはもう15年の間も更新していない。ここを出ずにさえいれば誰からも追い出されることはないのだから。

大陸を横断するトラックが家の前を土煙を上げて通り過ぎていく。砂漠のキャンピングカーの中はしんと静まり返り、久しぶりの緊張感に包まれていた。

やはり来たようだ。キャンピングカーの床の扉を開け地下室へと降りていく。8箇所に仕掛けられた監視カメラは黒い目出し帽を被った四人の男たちをモニターに捉えていた。埃を被った4台のTVモニターもまだ最低限の機能だけは残している。一緒に年をとって来たかけがえのない仲間達だ。

100m、50m。どんなに足音を殺しても監視カメラの前では全てが無意味だ。今日はどれにしようか。少し悩んでからスプリンクラーのスイッチを押す。放たれる水しぶき。彼らは気づかれたとばかりに隊列を整え突入の準備に入ろうとしている。だが、もう遅い。

スプリンクラーから噴出された毒は既に彼らの体内で牙を剥き始めていた。意識を失い呼吸を止められた身体はすぐに死へと向かうだろう。大丈夫。多分これが一番苦しくない方法だよ。

モニターの中でまるで白黒の映画のように次々と倒れていく四人を見つめる。自爆装置はつけていなかったようだ。もしかしたら他にも仲間がいるかもしれない。時計を確認すると午後三時十五分だった。モニターから決して目を離さずに夜を待つ。あっという間に太陽は沈み、辺りは暗闇に包まれる。少し冷えてきたため用意してある毛布にくるまった。目だけは決してモニターから外さない。きっと赤外線カメラの向こう側では彼らの周りにサソリを見つけることができるだろう。目を開けていることが痛くなってきた頃。朝日が昇っても結局仲間は現れなかった。硬くなった瞼を閉じて身体を伸ばす。死ぬことなんてどうでもいいと思っているくせに掌にはじっとりと汗をかいているのだから笑える。トイレがわりのボトルには間違っても飲みたくないものが溜まっていた。

外に出て瓶の中身をサボテンにかけてやる。トラックを探しに行かなくてはならない。久々にバイクに跨って担ぐロケットランチャーは流石に重かった。300mほど先に停められたトラック。キーは刺したままになっている。後ろのコンテナを確認するといくつかの武器が残されていた。武器のストックはなかなか減らない。バイクをコンテナに乗せトラックのキーを入れる。奴らの棺桶はなかなかに乗り心地が良いようだ。

武器を回収して四つの死体をトラックに乗せた。一仕事を終えた後、パンと牛乳を腹に入れて朝食を済まし、久々の遠出に備える。非常食と水、方位磁針があればなんとかなるだろう。

トラックは走り出す。大丈夫。あんたらだけじゃない。あんたらのことを待っている奴らがいるんだよ。3時間ほど砂漠を走らせると見覚えのある車両が見えてきた。風化した渓谷で荷台に機銃を付ける墓標。トラックを横付けする傍には既に7台の車が停まっている。ほら仲間を連れてきたよ。

少し腐臭の漂い始めたコンテナからオフロードバイクを引きずり出した。じゃあな。あっちでまた会おう。持ってきた信号弾を打ち上げる。大したことじゃない。世界からほんの数人悪い奴らが消えたことを衛星に教えてやるだけさ。別れの挨拶を済ませてバイクは走り出す。夜までに帰らないとこっちが危ない。

一つだけ確かなのは砂漠での暮らしが快適だということだ。都会やジャングルに住むよりも命の危険は格段に少ない。何もないお陰で死の匂いを知ることができる。砂漠をバイクで走りながら生きるとはなんなのだろうと考えた。簡単だ。死なないことだ。死ぬまでは誰しもが生きている。

砂埃を上げながらバイクは走る。きっと生きている限りこのバイクに跨るのだろう。いつまでこいつに乗れるかは分からない。新しいバイクを手に入れようなんて考えちゃいない。

ゴーグルから覗く遠く向こうに小さな我が家が見えてきた。